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■歯科医療■

<<判例研究>>


 法的な問題解決を要請されたとき、先例のうち裁判所の判断という権威ある判例をもとに、類似紛争を想定し、問題解決の手掛かりとする。

 判例とは裁判所が判決の理由の中で示した法律的判断である。歯科医療紛争に際して勝負の判決に至る結論の根拠となった法律的判断が、将来の予測として当事者に和解・判決の帰趨を決めるといってよい。

 具体的な紛争事例を考察する場合、証人の発言や専門家の鑑定書による意見を総合し、原告の歯科医療過誤に基づく損害賠償請求とそれに対する被告の抗弁が議論され、最終的に裁判官の判断が下される経緯を読み取る必要がある。

判例にみる医師の賠償責任


・・・判例にみる医師の賠償責任・・・

 身体・生命に関するスポーツ事故は、即時の救命など適切な医療が求められ、その際平均的な医師の能力に応じた医療水準に満たない医業は「注意義務違反」として医療過誤訴訟となる。医療上の因果関係は、現代医学をもってしても解明しえない分野が多い。専門家たる医師ならば、その高度の医学知識や技術・経験を持ってすれば、事故原因を予見し証明できるとするのは、医療の特殊性を無視する神業を求める議論といえよう。

 しかし、医療過誤訴訟は2002年には896件で、この10年間で倍増した(最高裁統計)。損害の回復は、原状回復が最善である。しかし、人の生命・身体が損なわれたとき、次善の措置として、民法は金銭賠償を原則と定める。
 「一人は万人のために、万人は一人のために、(One for All ,All for One)」が保険制度の理念である。

 医師の約4割(11万5千人)が加入する「日本医師会医師賠償責任保険制度」は1973年発足後30年経過した2003年までに139億円の赤字で、2002年4月から一般病床100床以上の病院での保険料が25%値上げされ、医師の負担する保険料の上昇傾向は避けられない。米国では1970年代から医療過誤訴訟による莫大な賠償金額および保険料の高騰の結果、医師の萎縮診療や廃業現象が生まれた。

 米国と異なり、いまだ日本は訴訟社会ではない。しかし、現状を認識するとき日本の医療環境も医事紛争や医療過誤訴訟の増加と共に、損害賠償を巡る紛争が避けられない時代の流れになろう。もとより、医師も人間である以上、医療事故を完全に防止することは出来ない。「患者の立場に立ち、患者が安心して医療を受けられる環境を整える」基本理念を希求し、医療の安全対策に万全を期するとともに、インフォームド・コンセントを基盤に医師と患者の信頼関係を構築するリスク・マネジメントの推進が求められている。

開業医のリスク管理 『 弁護士の関与で解決へ 』


<< 月刊デンタルパワー:2006/2/21掲載 >>

歯科を含む開業医の顧問弁護士としてご活躍で、医師の危機管理学がご専門の弁護士・菅原哲朗先生に法的な解釈を踏まえた対応のポイントと、実際のトラブル事例について伺いました。
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☆ ドクターのとるべき対応 ☆
 トラブルや裁判の回避というテーマで開業医の先生方にお話する機会がある場合は、いつも5つの指針について説明しています。

@人命救助…医の基本に当たります。なによりこうした緊急性を擁する初動を制することで、疾病の不拡大にもつながります。歯科だから人命救助に類する患者さんは少ない、生死に関わらないという甘さを捨て、痛み=生命と捉えて臨むことです。
A事実関係の把握…過去の事実、写真、レントゲン、カルテ、問診票あらゆるものを整理しましょう。
B先例に学ぶ…身近なトラブルなどから知識を得ておけば、いざという時役に立ちます。裁判での決着は氷山の一角、最後の手段であって、通常はその数十倍が表に出ないで潜在化していると捉える。
C仲間の信頼を得る…相談ごとをオープンにできる雰囲気があれば、トラブルに直面しても精神的に救われるし、解決のヒントも得られる。
D自己が正しい治療を実践したという確信…患者さんを治すために、技術は日進月歩だし、試行錯誤もある。最大限尽くした末の結果かどうかを明らかにすること。その上で、技術的に及ばない点があったのなら、リカバリーや転院も選択肢に入る。
 過去、顧問先では10件ほど患者さんとのトラブルがありましたが、7件が和解で判決以前に解決しました。裁判になった3件は、いずれも勝訴です。実際には、裁判まで行きつかないのがベストですね。なぜなら、金銭や時間の負担が大きすぎるからです。

☆ もしも裁判になったら… ☆
@弁護士費用
 私の相談料は、1時間3万円から受付けています。裁判に臨むに当たっては、訴訟金額によっても異なりますが、賠償請求額の5〜8%が着手金、判決によって、賠償額の減額された額の5〜10%が報酬になります。
A注意点
 裁判に臨むに当たっては、証拠保全される前の対応、カルテなどの保存管理の徹底が求められます。また当然ですが、不利な内容を隠す、偽造、捏造はいけません。

☆ トラブル回避の心構え ☆
 どんな先生でも日頃患者さんに接していれば「おかしい」「ひょっとしたら」という感覚は持たれると思います。そしてそれは、だいたい当たっているものです。ただその際、「まさか」自分の身にトラブルが起きるはずはないだろうという感覚を持つのは禁物です。会話の記録をカルテに書きとめる。必要ならテープに録音する。
 そうした最善策を講じておき、それでも問題が表面化するなら、法の活用を検討するというのが手順ですね。

☆ 他山の石とする心構え ☆
 いつでもトラブルは、自分の身に降りかかる可能性があると言う意識を持って、日常臨床に臨むべきです。また、日頃から新聞を読み医療過誤や裁判などトラブルを反面教師や他山の石とすることで、トラブルへの予見や回避能力も備わってきます。
 紹介する事例は、私の指示アドバイスにより独力でトラブルを未然に回避し、弁護士を表面に立てないで解決したケースです。
 顧問になっている歯科医院の後輩のトラブルとして相談がありました。当事者だけでの金銭的な解決ではその先生のためにならないと思い、電話やFAXを使っての指示と、アドバイスだけで解決しました。事例の患者は、当初より金目当てが明らかだったもので、どちらの歯科医院にも起り得る事例です。

【 実際に起こったトラブル事例 】

@ 平成13年3月29日:初診
初診:主訴は右上1番の仮歯が欲しい。予約なしでの来院のため仮歯は次回の予約日に作製すると説明した。患者本人は納得した。
「本日は、患者本人が問診票上で口腔全体の治療を希望したため、診査のオルソX線パントモグラムと主訴部位のX線デンタル撮影を行った。(歯周病、虫歯、根尖病巣について)」

A 4月6日:感染根管処置(右上1)
「前回のX線の結果説明、口腔内の歯周病の診査の後、右上1番の根管のロート状拡大と根管治療後、仮歯を作した。」

B 4月9日:午前、不在中にクレイムの電話
「患者本人より電話にて、右上1番・根尖部に自発痛があり、腫脹している。
* 受付が来院を促したが仕事を理由に来院不可能。
* 患者は痛みと腫脹に不満が強く、補償を要求。
* 受付が後に医院長が患者に電話を入れることを約束。
* 午後、患者との1回目の電話(患者の要求聴取)

C 4月10日:医師自賠責の保険会社の連絡・相談 
* 医師自賠責の保険会社は究めて対応が遅い、状況の電話での確認のみで問題の解決への意思は薄い。
<菅原弁護士に連絡・相談:確認した事実の重要性(患者が電話で話したこと=事実ではない)>
* 患者の話を聞く習慣のあるわれわれには難しい。もの(証拠)が重要、(経緯でなくそれを示す証拠):カルテ、X線写真はもちろん、会話の内容も話しただけでは無意味、録音テープが必要。)

D 4月11日:午後、患者との2回目の電話
 電話(録音テープ反訳書作成)。もの(証拠)としての会話:自分自身の言葉の選択が難しい。

E 4月16日:保険会社来医院・事情の説明・相談
 保険会社来医院・事情の説明・相談をした。歯科担当とのことであったが、専門知識に乏しく、カルテの記載確認もなし、X線写真をデジタルカメラで撮影し状況を聴取したのみであった。

F 4月18日:保険会社の保険請求用紙の送付。
G 4月27日:保管期間経過で返送。
H 5月 8日:再度、保険会社の保険請求用紙の送付。
I 5月17日:再度、保管期間経過で返送。
J 5月29日:菅原弁護士より内容証明便にて患者に保険請求用紙の送付の連絡。
K 6月6日:保管期間経過で返送。その後2便も同様。
L 6月7日:経過報告が菅原弁護士からあり、終了。

☆ 当事者である歯科医師の率直な感想 ☆
 歯科医師は日々の臨床の中で多くの患者さんと接し、歯科治療をすすめています。また、けがやかぜといった一時的な外傷や感染症とちがい病気の治療とともに機能と、審美性の回復といったような他科にはない特殊事情もあり問題の発生要素が多く存在します。
 今回、遭遇した問題は、その様な状況の中で起きた事例であり、小さな問題であるが、誰にでも起こりうる、対処によっては大きな問題になる可能性があります。
 この問題の処理に対し、当医院が行った対処の経緯と医師自賠責保険会社と弁護士の対応について紹介しました。事前に考えていたことと現実の違いに大きな開きを感じました。

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